藤村龍至インタビューについて

筑波批評2008秋』の目玉ともいうべき、巻頭インタビュー「批判的工学主義とは何か」について、紹介していきたいと思います。
藤村さんのブログでも紹介していただいたので、まずは一部を引用してみたいと思います。

「批判的工学主義」とか「超線形設計プロセス論」などで述べて来た「データベースの書き換え」「場所性と作家像の再定義」「メディアのあり方」などの一連の主張について哲学を専攻するシノハラ氏と社会学を専攻する伊藤氏と共に議論しています。個人的にも、今考えていることが包括的にまとまった内容になりました。
(...)
「批判的工学主義」などという、印象としては一見閉じているけれども、逆に異分野の人に通じるというのは「理論」の成せる技。(...)今回の件は小さな出来事かも知れないけれども、主張が分野を超えて響いたと手応えを感じたという意味で、ひとつの成果を感じるものになりました。
ゼロ年代の課題(round about journal)

さて、今回のインタビューは、藤村さんの設計したBUILDING Kで行いました。このビルについてはこちらを見ていただきたいのですが、リンク先の写真を見ていただけると、このビルの特徴が分かると思います。例えば、ちょっと地味ですが、室外機の位置。普通のビルディングであれば、屋上かベランダに置いてあるところを、部屋と部屋の間のスペースに隠すようにして置いてある。デザインと機能を同時に追求した結果、こういうことになっているわけです。
一見すると普通のビル、でもちょっと普通のビルとは違う。何故このビルはこのような形になっているのか。それを支えているのが、藤村さんの「批判的工学主義」という考え方です。


インタビューの内容についてもう少し具体的にいきましょう。

藤村 どういうふうに(笑) でも、不思議かもしれませんね。哲学の人から見ると、建築の人がどう反応するか、ということは。

僕たちが、最初に藤村さんに興味をもったきっかけというのは、藤村さんの文章の中に、表層と深層の関係、データベースなどといった言葉が出てきたり、『東京から考える』からの引用があったりと、東浩紀からの影響が見られたからです。
かつて、思想と建築が関わり合っていたということは知っていますが、しかし、その組み合わせがやはりあまりピンとこない感じがして、そのことから話を伺いました。

藤村 でも、あると思いますね。建築家固有の思考というのは。

批判的工学主義の、具体的な方法論である「超線形設計プロセス論」についての話では、半自動的な設計プロセスでもなければ、作家的なイマジネーションでもない、デザインのあり方について語ってもらいました。
そしてそれは、建築のオープン・ソースという話へと繋がっていきます。

藤村 コンピュータが浸透してきて、情報環境が浸透していったときに、建築の可能性は何か、ということですね。

建築家として設計に携わると同時に、フィールドワークなどの研究活動も行っている藤村さんに、スーパーマーケットにみられる工学主義的状況を説明していただきました。

藤村 今の建築ジャーナリズム、建築議論というのが、いわゆるアトリエ派だけに向いているのは非常に危険で、世の中の九割以上、組織・ゼネコン派みたいな人たちが作っているので、そちらも共有できる議論の枠組が必要だと思っています。

批判的工学主義は、単に設計実務や研究についてだけではなく、建築業界そのものを変えていこうという運動でもあります。それは、従来的な作家や組織に対する批判となっているからです。

藤村 より美しいスーパーマーケットなり美しいコンビニができるはずなんです。(...)新しい「身体性」や「場所性」が建築の力で生み出せるはずだと思っています。

建築における新しい美学、新しい価値基準をも生み出していくことが、批判的工学主義の向かう先なのではないかと、話を聞いていて思いました。つまり、単なる現状への異議申し立てではなく、もっとポジティブな主張なわけです。この下りを伺っていて、静かな興奮を感じたのを覚えています。


建築家・藤村龍至インタビューは、建築に興味のある方はもちろんとして、建築に興味のない方にも是非読んでいただきたい内容です。