筑波批評社×g86対談 前編

決戦間近ですね。
本日は、筑波批評社×g86のコラボ企画をお送りします。
id:g86は、『筑波批評』08秋号を作る際、建築家の藤村龍至氏にインタビューさせていただく過程で知り合った建築系の学生ユニットです。
建築界のザクティ革命、と勝手に僕は呼んでいるのですが、「議論」することを避けることにある現在の建築界で、さまざまな建築家やデザイナーにインタビューしたり、雑誌の1コーナーをジャックしたりなど、活発に活動しています。
領域は全く違えど、同じ世代で、言葉を発信することに敏感である者同士として、なんかやってみよう!ということで、チャットによる3対3の対談を行いました。
前半は筑波批評社のブログに、後半はid:g86のブログに掲載します。
是非ご覧ください。

参加者
筑波批評社:sakstyle(シノハラ) Muichkine(塚田) klov
g86:山道拓人 鎌谷潤 坂根みなほ

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書を持って都市へ出よう―g86

klov: では。皆様お忙しいところお集まり(?)いただきありがとうございます。かなり急なスケジュールでしたが。こちらもなにぶん初めてなので不手際あるかと思いますが、よろしくお願いします。ではとりあえず、自己紹介がてら、お互いの活動を話す感じで。まずはg86の皆様から。

鎌谷: 僕たちが活動を始めたのは、ちょうど1年前です。

山道: 大学の環境に閉塞感を感じ、様々な分野で最先端で活動をしている方々にインタビューを敢行していくことで、自分たちでプラットホームを作ろうとしたんです。インタビューや企画やデザイン活動を通して、オリジナルの都市や建築の認識の枠組みを作っていこうとしています。

klov: なるほど。プラットフォーム。それは自分たちの建築の基礎になるもの、ということでしょうか?

山道: そうですね。こないだの自由が丘プロジェクト*1も、プラットフォーム的壁面デザインと位置づけていますが、僕らのデザイン表現であると同時にキュレーションも行っています。QRコードを読み込むと壁面の向こう側に別の展覧会があるような、そういうプラットフォーム的思考もあります。

塚田: 面白い試みだと、ブログで読ませてもらって感じました。

シノハラ: かなりはっきりと、プロジェクトに目的があって、倒すべき先行世代がいるという感じなんですかね。

鎌谷: そうですね、僕らは建築的思考の新しい土壌を開拓していこうとしています。
シノハラ: いや、何か話を逸らしているようで申し訳ないのですが、チャットの感覚が中学生くらいの頃から身に付いているというのは、僕たちの世代の特徴かなと思ったりしました。

山道: そうですね。

シノハラ: ほとんど、疑いもなくネットを活動の場としていることとか。

山道: その僕らの新しい身体感覚の中に構造を見いだそうとしているかもしれません。

塚田: あの二重構造のようなものを建築に生かそうというつもりがある?

山道: ああいう二層構造を僕らの新しい身体感覚に重ね合わせてデザインしていこうと思っています。

塚田:僕はあれ、凄い好きなんですよ、二次元バーコードって昔から気になっていて、あれがあれば面白いことがいっぱいできるなと。
電脳コイルってアニメとか知ってますかね、メガネを通して町を見ると、コンピュータで実現されたペットやなんかが見えるっていう。拡張現実って言うみたいなんですけど、あれって未来技術のように言われてるけど、二次元バーコードがそこにあれば十分実現可能というか。

山道: QRコードを現代的な窓ととらえることもできるかなと。塚田さんの話と共振しそうです。

シノハラ: QRコードが窓か

坂根: 私たちの年下になるともはやパソコンでなく携帯がすべての人たちもいますからね。

klov: いますね。ネットというと携帯のネット、見たいな。

山道: いわゆる建築家が壁や窓をデザインの対象とするように、QRコードはこちら側とあちら側をつなぐ窓かと単純にとらえてみました。

塚田: 建築家が窓をデザインするってのは、言われてみれば当たり前だけど、気づかなかった。見え方みたいなものを意識して建築をすると。

klov: 自由が丘ストリートエキシビジョンは「批判的表層主義」とおっしゃってましたね。

シノハラ: QRコードをデザインする、という話は面白いなあと思うのですが、それもまた建築だったのか、という驚きというか建築という言葉は、結構射程が広いのかな、というか。

坂根: ネットワークの構築とかが、もはや建築なんですよね。

klov: あの自由が丘ストリートビューの反響みたいのはどうでしたか?

鎌谷:色んな方が、見てくれて、女子高生とかがかなりはしゃいでました(笑)。ある商店街の方にも興味を持っていただいて、そこの商店街でもやってみないかと依頼を頂きました。

塚田: 動画が上がってましたね、女子高生がケータイかざしている姿は良かったです。

鎌谷: あと作品提供者も自分の作品が手軽な壁紙サイズに変換されてそれが新鮮だともおっしゃってました。

klov: なるほど。かなり身体性に密着しているというか。表層的だけど、振る舞いのレベルに影響してますよね。

鎌谷: 一点ものだった自分の作品が急に解像度を変え、大量にコピーされて出回るというのは、非常に現代的というか。

塚田: 現代的ですね、手触りを大切にしたいという人には受け入れられないかもしれないけど、こうすればもっと面白いことができるんだということを見せてやった感じがしますね。

鎌谷: そうなんですよね、壁紙にしている方とかもいらっしゃいますし。

klov: g86の皆さんのコンセプトとしては、表層と深層の架橋、というのが全体的にあるのでしょうか?

鎌谷: 僕たちがやってきた作品にはそれが通底していると思います。

klov: それは皆さん最初から問題意識としてあったのでしょうか?それとも、g86として活動してきてから、でしょうか? もし個人としてそういう考え方をもつ方がたまたま集まったのだとすると、めちゃめちゃな偶然だと思うのですが、最初は皆さん、どういう経緯で集まったのでしょう?これは筑波批評社にも跳ね返るのですが。

山道: とにかく作ることが好きな人たちなんですね。でも大学の課題というフレームの中でアウトプットしても、その射程ってものすごく限られるじゃないですか。そもそも課題はシュミレーションです。展示も廊下に張られるぐらいですよね。だからまずはウェブで表現をする基盤をつくろうとしたという感じです。

klov: なるほど。RAJ*2でも「閉塞感」とおっしゃってましたね。

シノハラ: そこで、インタビューって形になったのは、何故なんでしょうか?

山道: インタビューをしたのは、僕らで一次情報を集めようとしたんです。大学にいると、建築家が参照するものを先輩が参照して、それを僕ら後輩が参照するみたいな構図があって。僕らがいくら一生懸命それらを読みこんでも、周りのみんなとインプットが同じなわけだったんですね。

鎌谷: 建築はもっと多義的なものであるし、その評価の軸自体を僕たちで作り上げようと思ったのが、インタビューをしようとしたきっかけです。

klov: なるほど。結構、議論をしたり本を読み込んだりするのは、歴史を学ぶというより外部情報にアクセスする、という感じなんでしょうか。

山道: 都市で活動していて建築雑誌にはでないけどすごく批評的な人に直接アプローチすることで、オリジナルな一次情報を集められるんじゃないかという予感のもと、とりあえず書を持って都市へでたという感じです。

遊離した記号として―筑波批評社

klov: 書を持って都市へ!かっこいいなぁ。では今度は筑波批評社にバトンを。
山道: そうですね。筑波批評の方のモチベーションを。筑波批評社は、テクストで勝負してる感じがめちゃ憧れます。

シノハラ: テクストで勝負している感じかあ。テクストで勝負するというか、僕たちにはそもそもテクストしかないですからね(笑)。

山道: みなさんは将来は何をめざしていますか?批評家ですか?

シノハラ: 先ほど、「とにかく作ることが好き」とありましたが、それに倣って言うのであれば、「書くことが好き」なんですね。そういう「書くことが好き」なメンバーが集まったのは、偶然によるところも大きいわけですが、折角集まったのだから、これは継続的に活動した方が、お互いにいいんじゃないか、と思ってこう結社(?)になったわけです。

klov: 皆さんは建築なのである程度活動が形に残るのですが、僕らは議論したり考えたりしても、放っておくと何も残らないんです。個人的なモチベーションとしては、自分で考えたこと、人と考えたことを残したいなという。

山道: アウトプットの仕方は違いますが、考えてることは似ていると思います。
塚田: それ重要ですよね、だってg86は目指すものが同じってことで集まっているところがある。僕たちはなぜかテクストであらゆる分野に切り込む批評とか面白いなと思ってしまって物を書いてるわけだけど、一人でやってるとさ、継続性みたいなものを保つのって難しいと思うんだよ、テンションとか仕事の忙しさで。sakとかklovとかはブログを良く書いてるけど、僕はブログを書き続けることも大変でさ。そんな中で、筑波批評社みたいなグループがあれば、僕が休んでる間も、グループ自体の活動は続いていて、いつでも復帰できるみたいな。

坂根: blogをみていると、普段の生活で吸収しているものあらゆるものについてすごく色々書いますよね。

山道: 今塚田さんがあらゆる分野に切り込むと書かれましたが、僕らはそれを読んで想像力を拡張できます。

鎌谷: 塚田さんがいっていることはg86でも同じです。今g86ロンドンとして、ロンドンでもインタビュー活動をしてもらっているのですが、僕たちは直接的に動いてないけど、僕たちの成果物としてアップされている。集団でやることの強みというか、非常に現代的だなと。

塚田: 僕は、グループに貢献し、グループの名前がまた僕を活動に引き入れてくれるみたいな。

山道: 完全に同じですね(笑)。

坂根: すごいわかる!

山道: 5人いるから誰かがやることがほかの人を奮起させますしね。 あ、アップされたみたいな(笑)。 気づいたら誰かが記事をアップしているんですよね。

塚田: あるあるw誰かがアップしてくれててよかったみたいな。せっかく、こいつはできるって仲間と出会えたんだから、お互いの肩を借りてというか、もちろん一人で立っていくだけの自信もあるんだけど、それだけタフなやつが集まればいろいろと楽だなと。

鎌谷: web2.0みたいにスーパーフラットみたいに記号だけが遊離して、あとはみんなが自動的にそれを成熟させていく感覚。

山道: そうそう。

坂根: しかも同じ目的があるなら、それがかなりバラバラな個性をもった人たちの集まりだと実はさらに強くなれる。

シノハラ: ある人に、筑波批評社は「タチコマだ」と言っていたらしいんですが、思考や批評のStandAloneComplexというか

鎌谷: なるほど!!! それはg86でもそうですよ。まさに現代的。

塚田: なんで僕たちのようなグループが「今」現れているんでしょうね。

シノハラ: 筑波批評社というのは、今6人のメンバーで活動していますが、僕はほんとはこの6人ということにはあまり拘っていないんです

山道: 組織の形態としてはアルカイダもにてますよね(笑)

klov: (笑)

シノハラ: ただ、物理的に会う機会が多いので、実際には6人での活動が圧倒的に多いですが。ああ、俺も筑波批評っぽいことしたいなあと思ったなら、それはもうある意味で筑波批評社の一員だ、と。だから、さっき、誰かがアップしていると刺激になるって言ってましたけど、それはもう筑波批評社のメンバーであるかどうかは、あまり関係ない。

鎌谷: 完全にSACだ。

klov: 遊離した記号を媒介に繋がるゆるーい組織体ですね。

シノハラ: 一つの目的としては、そういう様々な人の活動が、何となく固まっていくものを作ってみたい。

塚田:グループで活動するという形態は昔からあったとは思うんですけど、似てるようで違う。g86のみなさんは昔のようなサロンみたいな空間を目指していますか?僕たちはそうではないような気がするんです。

山道: 誤解を招きそうですが、好き勝手にやるけどg86っていう枠組みだけは保存されつづけていく感じです。

坂根: g86がg86メンバーにとってのプラットフォームであるという。

山道: まさに都市みたいな状態をつくりたいですね。

シノハラ: ただ、それは一つの目的・目標としてあるけれども、一方で具体的にどういう手段によってそれを達成するのか、ということは今現在、klovたちの課題だと思っています。具体的な手段という点では、g86のみなさんはどういうことを考えていますか。

鎌谷: それは僕たちもそうですね。

山道: 具体的な手段が僕らに取っては空間という落としどころなのかもしれませんね。

鎌谷: ブログで更新が非常にしやすいはてなを使っていることはかなり強い。ロンドンでも日本でも限りなくフラットに更新できる。

塚田: g86ロンドンの存在は象徴的ですね。

山道: g86ロンドンなんかは、g86ロンドンっていうのが共存できるんだっていう時点で僕らの表現なんですね。

塚田: 離れ離れになっていてすぐにちぎれてしまうような関係性のなかでぎりぎり繋がっている。

シノハラ: プラットフォームが一つの表現手段、というのは、なかなか考えさせられます。

山道: g86ロンドンとして発信する情報の内容はもちろん刺激的で僕らにとっても大事ですが、それよりもそういうあたらしい組織のあり方が最終的なアウトプットに絶対に反映されると信じています。

坂根: 批評社さんたちはまさにこれからの批評のカタチを模索しているということですよね。

klov: 僕らも結構、テクストを作るという活動に関しては広範囲というか、あっちゃこっちゃ手を出しています。文芸批評をやり、社会批評をやり、ウェブでアップして、動画を中継して……。

鎌谷: 動画を中継というのは?

klov: 「自己啓発トークラジオSURViVE」という名前で、ustreamというツールを使った中継番組をネットでやっています。毎週金曜日24:00から2時間くらいの番組です。

坂根: すごいタイトル。

鎌谷: ハードコアだ。

塚田: ちょっと昔で言うところのネットラジオみたいなやつですね。全然自己啓発の話してないです(笑)。

klov: まったく啓発されないよね(笑)。

鎌谷: 僕たちも以前ラジオで建築の議論を企画したこともあります。

坂根: 銀座の地域で関東を中心に12団体集めて、アーキサミット春の陣という名前で7時間議論しました(笑)。

klov: 7時間!

シノハラ: ハードだなあ(笑)。

坂根: トイレも我慢して。

山道: 僕らvs一団体で基本はまわしていくんですが、一団体持ち時間は30分くらいで、最後の10分を次の団体と共有して議論をつなげていきました。

坂根: ラジオの構成自体もちゃんとデザインできたよね。

塚田: どういう議題があがっていました?

山道: 議題としては、最初の団体は都市をテーマに。それが徐々に実作品へスケールダウンしていきましたね。事前打ち合わせでそれぞれの団体が話したいことを抽出していったんですが、都市論やらメタな人やらあとは具体的な作品をプレゼンする人までいて、それらをグラデーションになるように順番にしました。それで最後は一周して、最初の団体の人を読んで一個のループを作りました。

鎌谷: http://d.hatena.ne.jp/g86/20080407具体的にはここの記事をごらん下さい。

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後半はこちら

*1:http://d.hatena.ne.jp/g86/20081009/1223599902

*2:Round About Journal。藤村龍至氏の編集するフリーペーパー。建築とその外の領域を架橋する。